Case
「子どもの命を守る」産官学連携の挑戦〜環境省実証事業の採択と、シャープ製『蓄冷材』の社会実装〜
1. プロジェクトの背景:世界的メーカーからのオファーと、環境省への挑戦
「スポーツトレーナーの会社が、環境省の公募事業に採択された」。一見すると結びつかないこの事実は、ウィンゲートが持つスポーツ医・科学の知見が、社会課題の解決に不可欠であることを証明した創業以来最大規模のプロジェクトの証です。事の発端は、世界的家電メーカーであるシャープ株式会社との関わりに遡ります。当時、ウィンゲートは同社が開発した独自の「蓄冷材(特定の温度を長持ちさせる素材)」のスポーツ応用においてアドバイザリーを務めていました。
しかし、画期的な素材でありながらも商品化の壁は厚く、プロジェクトは足踏み状態が続いていました。 そんな折、シャープの研究開発事業本部 渉外部から遠山へ一つの打診が舞い込みます。「環境省が『令和2年度熱中症予防対策ガイダンス策定に係る実証事業』の公募を出している。一緒にチャレンジしてみませんか?」
ウィンゲートはこの提案を受け、熱中症弱者である「子ども」にテーマを絞り、「運動前に12℃の蓄冷材で手のひら(AVA血管)を冷却することで、深部体温が上がりにくくなる」ことを証明する画期的な実験プランを構築し、見事、環境省の公募採択を勝ち取ったのです。

2. 現場での実践:立ちはだかる「倫理申請の壁」と、最強の布陣
しかし、実証実験の計画を進める中で最大の壁が立ちはだかりました。それは「倫理申請の承認」です。 子どもを暑熱環境に入れて運動させること自体の危険性に加え、深部体温(核心温)を正確に測るために「直腸温」を測定しなければならないという身体的負担が、倫理的に大きなハードルとなったのです。
このプロジェクト存続の危機を乗り越えるため、遠山は自らのネットワークを駆使し、長らく交流のあった国際武道大学のアスレティックトレーナー養成のスペシャリスト・笠原政志先生や山本利春先生に監修を依頼。倫理的に問題のない完璧な研究デザインを構築していただきました。さらに、江戸川病院の岩本航先生に医療監修を依頼し、安全管理体制を徹底。そして直腸温の問題は、最新の「連続測定型耳式体温計(ニプロ社)」を採用することで見事にクリアし、無事に倫理委員会の承認を得ることに成功しました。

3. 成果と圧倒的なフィードバック:科学的エビデンスの確立と学会での評価
シャープ製の蓄冷材を用いた厳密な実験の結果、成人に対する先行研究と同様に、「子どもにおいても運動前の手のひら冷却が、運動中の急激な体温上昇(核心温の上昇)を抑制する」という事実が明確に実証されました。この結果は環境省への報告を経て公式な実証データとして認められただけでなく、第8回日本スポーツパフォーマンス学会において発表を行い、見事「優秀賞」を受賞するという快挙を成し遂げました。
シャープ株式会社という大企業が持つ「最先端の素材技術」、国際武道大学などの「学術・医療の権威」、そして環境省という「国」。これらをウィンゲートの「現場力」が結びつけ、産官学連携によって社会課題の解決(社会実装)へと導いた、極めて重要なマイルストーンとなりました。

4. 知見の水平展開:圧倒的ネットワークが実現した「熱中症セミナー」
さらにウィンゲートは、この得られた貴重な知見を広く社会へ還元するため、実証実験の結果報告を兼ねた「熱中症予防対策セミナー」を自ら企画・開催しました。 登壇者には、遠山がかつて非常勤指導員を務めていたJISS(国立スポーツ科学センター)の元センター長である川原貴先生、元・東北楽天ゴールデンイーグルスのスポーツ栄養士である長坂聡子氏、そして今回の実証実験でキーパーソンとなった国際武道大学の笠原政志先生をお招きし、専門的知見が集結する豪華な3本立てのプログラムを実現。
当時はコロナ禍の厳しい環境下でしたが、オンラインのライブ配信や追いかけ配信を駆使することで、スポーツ関係者など計110名を超える方々に聴講いただく大盛況となりました。シャープ株式会社という大企業が持つ「最先端の素材技術」、国際武道大学などの「学術・医療の権威」、そして環境省という「国」。これらをウィンゲートの「現場力と発信力」が結びつけ、産官学連携によって社会課題の解決(社会実装)へと導いた、極めて重要なマイルストーンとなりました。