Case

子供一人ひとりの個性に合わせて体力の現状と適合するスポーツを提案するシステム『マイスポ』の開発

子供一人ひとりの個性に合わせて体力の現状と適合するスポーツを提案するシステム『マイスポ』の開発

トレーナーの視点が拓いた「マイスポ」の核心

創業当初、私はアスリートのトレーナーとしての経験を活かし、都内の公立小学校で「体力テストの結果を分析し、自分にぴったりのスポーツを探そう」というテーマの授業を定期的に行っていました。これまでの体力測定は、単に数値を計測し、5段階評価を出すだけの無機質な形式に留まっていました。そこで私の授業では、測定データから「君の今の体格と体力を分析すると、こんなスポーツが楽しくできそうだよ」と、一人ひとりの個性にマッチする競技群を提案する——これまでにない、新しいアプローチを実践したのです。自分の得意分野を知ることは、体を動かすきっかけになり、子供たちの潜在能力を大きく開花させます。おかげさまで各校から高い評価をいただき、毎年複数の学校から依頼が絶えませんでした。その中で、私は一つの確信に至ります。「もしこのノウハウをシステム化し、全国の教員が活用できれば、運動好きの子供たちをもっと増やせるのではないか」と。

運命的な出会いから、共同開発へ

そんな想いを抱きながら、参加していた「TMBCビジネス交流会」で体力測定システムについてプレゼンする機会を得ました。講演後、会の幹事を務めていた斎藤柳光氏にお声がけいただいたのが、すべての始まりです。斎藤氏はシステムの理念に深く共感し、「これをもっと世の中に広めたい」と熱い言葉をかけてくださいました。元日刊スポーツの編集者であり、明治大学出身の経営者ネットワークの要でもある斎藤氏。そのご縁から「大学同窓生のつながりで、信頼できるシステム会社の社長を紹介しましょう」と、株式会社イーストの代表、長島氏を引き合わせてくださったのです。紹介いただいた長島社長は、商業施設運営のDXを牽引するSCマネジメントシステムMallProを展開されています。MallProは、煩雑な業務を自動化するだけでなく、分析ツール「QlikView」による可視化やテナント間の情報共有までを実現する、まさに「現場の課題」を解決し尽くしたシステムです。私は、こうした高度な構築力はもちろん、イースト社が掲げる「地方創生事業」のあり方にも深く感銘を受けました。自治体と連携し、地域資源を活かして体験的価値を創り出していく姿勢は、私たちがスポーツを通じて実現したい未来そのものだったからです。長島社長もまたスポーツ分野に強い関心をお持ちで、お会いしてすぐに私たちの構想に共鳴してくださいました。商業施設を支える盤石な技術基盤と、まちづくりを見据えた広い視野。そんなイーストさんの圧倒的な魅力に引き込まれるようにして、両社によるシステムの共同開発が、力強くスタートしました。

現場の形骸化を打破する、逆転の戦略

日本の教育現場において、毎年約600万人もの小学生が体力測定を受けています。しかしその実態は、一人あたり約250円という公費を投じながら、単にデータを収集・蓄積するだけに留まる「形骸化した仕組み」に成り果てていました。子供たちの意識や行動を何一つ変えることのないこの不毛な現状に、私は強い危機感を抱き、メスを入れることを決意したのです。当初は学校現場への直接導入を模索しましたが、長島社長と議論を重ねる中で突きつけられたのは、公教育の厚い壁というシビアな現実でした。即時の導入は困難――。その高いハードルを前に、私たちは戦略の転換を迫られました。

そこで導き出したのが、「市場で実績を積み上げ、外堀から埋める」というスモールスタートの決断です。小学校の授業を通じて確信を得ていた「測定結果に基づき、最適なスポーツを提案する」という独自ノウハウ。これを商業施設を舞台とした「体験型イベント」へと昇華させ、市場価値を世に問うことにしたのです。株式会社イーストが長年培ってきた「商業施設への強固なネットワーク」を背景に、スポーツ適性診断を軸とした集客ソリューションという新たなビジネスモデルを提言。

これに呼応するように、エンジニア3名、営業1名からなる精鋭の専用プロジェクトチームが発足しました。この瞬間、理想は「マイスポ」という実体を持つプロダクトへと変貌し、その開発スピードは一気に加速していったのです。※マイスポは「マイ・スポーツ・テストの略です」

マイスポが提供する 4 つの価値

  • 適合するスポーツの発見:自分の得意を知る。
  • 運動意欲の向上:数値の評価よりも「やりたい!」を引き出す。
  • 個性を伸ばす評価:一人ひとりの特性をポジティブに捉える。
  • 15 の動物タイプ診断:子供たちが親しみやすいキャラクターで適性を提案。

グローバルブランド「adidas」との共鳴、そして加速する社会実装

「マイスポ」の可能性を決定的なものにしたのは、世界的なスポーツブランド「adidas ジャパン」からの要請でした。私自身、かつてadidas Functional Trainingの教育トレーナーを務めていた背景もあり、ブランドが掲げる理念とは深く繋がっていました。担当者へ「マイスポ」の構想を提示したところ、即座に深い関心が寄せられたのです。

当時、同社が展開していたジュニア向けマルチスポーツ体験イベント「Young Athlete Challenge」の存在は、まさに強力な追い風となりました。世界的なブランドアイデンティティを厳格に保持するため、あえて「マイスポ」の名は冠さず、そのシステムのみを提供するという戦略的供給の形をとりましたが、私たちの提案は、単なる測定に留まらない「未来へのマッチング」という付加価値として高く認められたのです。

こうして2018年、墨田区総合体育館でのイベントにおいて、ついにシステムとしての初導入が実現しました。これは、日本のスポーツ界に変革を迫るための、確固たる第一歩となりました。この成功を機に信頼の連鎖は加速度的に広がり、J:COM主催のラグビーイベントや、有力商業施設「流山おおたかのもりS・C」、さらには高知県や消防庁といった公的機関への導入など、官民を問わず社会実装のステージへと確実にステップアップを遂げていきました。

そして、こうした一連の革新的な取り組みは、ついに国家的な評価を受けるに至ります。厚生労働省とスポーツ庁が主催する「第11回 健康寿命をのばそう!アワード(スポーツ庁長官賞 優秀賞)」を受賞。「子供たちが自分に合ったスポーツに出会い、生涯にわたって運動を親しむ土壌を作る」という私たちの挑戦が、日本の健康寿命を延ばすための極めて有効な一手であると、公に証明されたのです。

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